2017年1月29日日曜日

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『殉教の島 天草』宮崎喜一




宮崎喜一『殉教の島 天草』,私家本,1992年頃?

 私家版。天草というと海岸線まで迫る山、大小様々な島、漁港、隠れ切支丹。元のプリントからしてそうなのか特殊な印刷方法なのかちょっと分からないが、独特の風合い。高精細で暗部のトーンも良く出ている。

 メインテーマである隠れ切支丹について、ありきたりに遺構を取材して回るようなものではなく、草に埋もれる十字架の刻まれた墓石、すり減ったマリア像の石彫、ベールをかぶってお祈りをするおばあさん、和洋折衷っぽい祭壇(仏壇の奥にマリア様の肖像)などなど、現代の人々の中に根付く信仰を坦々と捉えることによって、かつてそこが隠れ切支丹の里であったことを見せていく。
 
 作者の宮崎さんは出版時地元市役所におつとめで連絡先まで記されている。経歴や肩書きからすると、地元のアマチュア写真界ではかなり名の知れた人だった様子。

 手許にある私家本の中でも特に気に入っている一冊。10年くらい前に京成八幡駅前の古書店で購入、最近になって神保町でもう一冊見つけたのでそれも購入。地元熊本の古書店で8000円くらいの値段がついているけど、探している人がいればそれくらい出すんじゃないか。




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2017年1月28日土曜日

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『Mujeres Presas』Adriana Lestido



Adriana Lestido『Mujeres Presas』, Colección Fotógrafos Argentinos,2007

 アルゼンチンの写真家女性刑務所のドキュメンタリー。小さい窓から顔を覗かせていたり鉄格子をつかんでいたりするのでそこが刑務所であることはすぐ分かるが、どの受刑者も罪を償うとか矯正するとかいうよりも、抗いがたい運命に翻弄されているかのような表情。最初の方に並んでいる幼い子供を抱いているポートレートが印象的。

 アルゼンチンでは女性は子供が2歳になるまで刑務所で一緒に過ごすことができる。その後、養育権は剥奪され彼女らの運命は裁判所によって決定されることとなる。刑期を終えてから再び一緒に暮らせることもあるが、親戚や孤児院に預けられたり他の家族に養子として貰われるケースもある。写真につけられているキャプションが悲痛。

 作者のMujeres Presasはアルゼンチンでは有名な写真家のようであるが、英語圏での情報が少ない。もっと注目されてもいいんじゃないか。


  http://www.adrianalestido.com.ar/index.php



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2017年1月25日水曜日

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『Concrete Mama: Prison Profiles from Walla Walla』Ethan Hoffman



Ethan Hoffman『Concrete Mama: Prison Profiles from Walla Walla』,  University of Missouri Press, (1986)

 本書はソフトカバー。ハードカバー版は1982年に出ている。

 ワラワラ刑務所として知られているWashington State Penitentiaryは、1886年創立で収容人数は2000名を超える。短期で出る者から、50年~終身刑、死刑までを含み、歴代のシリアルキラーも多数収監されている。裏表紙には全米屈指の札付き(死語)が集まるワラワラ刑務所、衝撃のドキュメンタリーみたいなことが書いてある。
 
 囚人の収監時の様子、所内での生活などを追いつつ、刑務所の日常を描写していく。70年代のアメリカの刑務所というと、鉄格子にガチャガチャいう鍵束、ピザばっかり食ってる太った白人看守みたいなイメージなんだけど、まさにそれ。今は囚人の人権に配慮して云々みたいなところがあるけど、当時はがちで怖いところだったんじゃないか。テキストも充実していてフィクションを書く際の参考資料にもなりそう。

 最後の方に家族との面会のシーンが出てくる。あちこちで抱擁している様子が壮観なのだが、面会後のチェックが厳しくて、みんな素っ裸にされて股間までのぞき込まれているなど大変なことになっている。





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2017年1月15日日曜日

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『Heavy Metal』 Alex Fakso



Alex Fakso,『Heavy Metal』, Damiani,(2007)

 英写真家Alex Faksoがグラフィティに興じる若者を追いかけたスナップ。深夜の車両基地に忍び込み素早く作業をする様子をスリリングに見せていく。塀を乗り越えたりマンホールから顔を覗かせたりしているところは国境線の突破を試みる密入国者のようだ。


 本書の特徴はなんといっても全編にわたり対角魚眼レンズで撮影されているところ。若者に密着しつつペイントされていく車両など周辺を描写するのにこれほど効果的なレンズはない。というか他にこれほどうまく対角魚眼を使いこなしている例を見たことがない。

 アパレルメーカの基金を得たりで予算が潤沢であったのか製本もいい。写真も面白いし本の作りもしっかりしているのに古書市場での価格は驚くほど安い(2017年初め現在)。部数が多めで市場でだぶついていたりしているのかしれない。手に入れるなら今が狙い目。













 魚眼レンズで撮られた作品で印象に残っているのは、奈良原一高さんの「ヨーロッパ・静止した時間」、「ブロードウェイ」、鈴木志郎「眉宇の半球」あたり。特に「眉宇の半球」は魚眼レンズで日常を切り取り記録するという他に類をみない怪著なのであるが、市場では人気がないようでどこでも安心の古本価格である。

 対角魚眼レンズは文字どおり画面斜めの画角が180度に達するもので、焦点距離でいうと16-17mm前後の超広角レンズに相当するものである。実はこれくらいの超広角になると適度にタル型の歪曲を残してくれた方が撮りやすい(ラフに構えても4隅を引っ張られる感じがしない)というのがあるので、その方向に突き詰めていくと対角魚眼を使いこなすヒントがあるんじゃないかな。

関連リンク
SO BOOKSの本書紹介ページ https://sobooks.jp/books/70281
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