北井一夫『おてんき』宝島社刊、1994年、モノクロ。
日本全国あちこちで小さな生き物を撮り歩いたもので「生き物歳時記」といった感じの写真集だ。北井一夫さんというと、最近では日本カメラの「ライカで散歩」シリーズ、それ以前は「村へ」「三里塚」などの社会派ドキュメンタリというイメージであり、こういうネイチャー系の写真集は異色であるといえる。ディープな北井ファンは必見。
撮影した北井さんの苦労も相当だったらしく、撮影が終了してから本になるまで2年かかったこと、「特殊レンズ(魚眼とか超望遠とか)は使わない」北井さんが一眼レフ用のマクロと超望遠レンズを買ったこと、それでも慣れてくるとライカにビゾフレックス+65mmくらいでも撮れるようになったことなどが、後書きで縷々語られていて、興味深い。
あと、この本の特徴は全編モノクロだということ。北井さんの写真だから当然であるとも言えるけど、ネイチャー系の写真集でカラーでないというのはなかなかの冒険であると思う。単に写真集としての見栄えの問題ではなく、そもそもヘビでもカエルでも、野生の動物は周囲の環境にカモフラージュするような色合いなので、何も考えずにモノクロで撮影するとどこに何がいるのか分からなくなってしまうのだ。おそらくは慎重なフレーミングと緻密なプリントワークが駆使されているはずで、モノクロでこういうものを撮るときの参考になる。
ついつい撮影技法に目が向いてしまったけど、そういうのはどうでもいい話だ。ほのぼのとした写真と文章は眺めているだけで幸せな気分になる。ぶらっと小旅行に出かけたくなる。表紙のツバメの写真にぐっときた人におすすめ。
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